精神科医とカウンセラーの違いは視点にある?

精神科医とカウンセラーの違いは、よく話題にのぼる疑問の一つです。

一般の方の中には、混同されている場合もあると思いますが、全く異なる存在です。

よく考えてみれば、その道に詳しい人達の間では当たり前の事でも、馴染みのない人にとっては、区別のつきにくい資格や仕事はたくさんあると思います。

例えば法律に関心がある人は、行政書と司法書士の違いを述べられると思いますが、法律に触れる機会がない人は、その違いを明確にできる人は少ないのではないでしょうか。

他に身近な所では、保健室の先生もどういう存在なのかよく理解されていない節があります。保健室の先生になるには、教育学部を出るのでしょうか?それとも看護系の大学でしょうか?保健師さんとも違うのでしょうか・・・。

ここでは、あくまで一つの説明の仕方になりますが、精神科医とカウンセラーの違いに触れてみたいと思います。

大きな違いは、視点やモデルにあると考えています。その他、合わせて、精神科医とカウンセラー(臨床心理士を例に)の訓練課程の相違についても触れたいと思います。

精神科医のモデル

はじめに、精神科医でない者が精神科医の専門性を述べることは非常に恐縮する事柄であり、しかも、その深淵なる領域にまで及んだ記述はできないということを前提としておきたいと思います。

カウンセラーの立場から書いていることをご承知ください。ここに書かれていることは、精神科医を表すごく一面です。

さて、精神科のモデルは、因果論に基づくモデルであり、これは原因と結果に注目するものと言えます。

我々は日常でも、物事の原因を探す事があります。つまり、雨が降ったのは、梅雨入りしたためだ、とか、最近体重が増えたのは、カロリー摂取が増えたためだとか、電気が点かないのはヒューズが切れたためだ、というように因果論に基づく考え方や見方は、我々の生活の中に溢れています。

むしろ主流といえるもので、この考え方なしには我々の生活は成り立ちません。精神科以外でも多くの場所でこのモデルは活用されています。

援助方法

次に、この因果論に基づいたモデルでは、下記のように援助が展開されます。

体重が増えた→カロリーが多いためだ→カロリーを減らすため食事を変える→減量

精神科との違いの説明このように、体重が増えた原因を特定し、その対処法を食事の変更としています。その結果、カロリー摂取量が減り減量へと至るという流れです。

精神科医療も基本的には上記の様な流れで計画が組まれるはずです。

 

日々の診療で行うこと

精神科医の場合は、カウンセラーには法的に許されていないことが日々の診療の中で行われています。

  • 薬の処方(抗不安薬や睡眠導入剤などがあります。)
  • 精神療法(定義上は、カウンセラーが行う場合は、心理療法、精神科医の場合は精神療法と呼ばれる、というぐらいの違いではありますが、誰が・どういう視点でその援助法を用いるかによって、内容は変わっていくと考えています。実際のところ、時間の関係で、医師が正式な精神療法を実践する機会は少ないと言えます。)
  • 診断(カウンセラーは、診断を行ってはいけません。)

精神科医の訓練

精神科医は医師ですから、当然大学は医学部へ入学する必要があります。そして、医学や精神医学を学び、医師免許の取得を経て、自分で診療を行うようになっていきます。

医学部は、学部を卒業するまでに6年の期間を必要とします。そして卒後は、初期研修に入ります。この研修後に、自分の進む診療科でのさらなる研修へと移行していきます。(学部入学から全部で9年くらいかかることになります。年齢にすると、ストレートで、27,8才位になるようです。)

カウンセリングのモデル

一方カウンセリングは、原因と結果のモデルからは離れたモデルになります。目的論的などと表現されます。(全部そうだとは言えないとは思っています。)

つまり、原因ではなく、意味の方に注目するモデルです。このモデルの説明は非常に難しいものがあります。

例えば、風邪をひくと熱が出ますが、熱が出ることには意味があると考えます。熱が上がると、ウイルスが死滅するようなのですが、発熱はウイルスの広がりを抑えるために起きていた、とも言えます。

こちらの方が目的論的な発想になります。(もちろん発熱には他の要因があったり、苦しんでいる時に解熱剤を使わないとかそういう意味ではありません。あくまで説明のための例として提示しています。)

カウンセリングで問題となっていることは、多くの場合原因がわからないものです。また原因がわかったところでどうにもできない場合も多数だと思います。

昨今では、ソリューション・フォーカスト・アプローチのように、原因を探すのではなく、うまく行っている状況から解決のヒントを得るという発想も広がってきています。解決志向と呼ばれます。(因みにこのアプローチは、ミルトン・エリクソンという精神科医の診療をエッセンスにしているわけであり、精神科医の中にも、因果論的でない視点を持っている人がいたのです。そういうこともあり、単純に精神科医とカウンセラーの違いを述べることはややこしい点が多数あります。)

日常的業務

  • 心理面接(カウンセリング)(面接が、カウンセラーの活動における中核的な業務です。医師の診察とは異なります。)
  • 心理検査(検査も大きな専門性の一つです。診断のためではなく、どのような体験をしているか、という点に注目します。)

カウンセラー(臨床心理士)の訓練

ここで、精神科医と比較して、カウンセラーの訓練に触れて行きたいと思います。

臨床心理士の場合は、医学部ではなく、教育学部や文学部の方面へ進みます。学部で何を学んでいたかは今のところ問われませんが、多くの場合は、心理学科に所属しています。(俗っぽい言い方ですが、心理学科は、理系・文系の括りで言えば、文系にあたります。医学部は、理系です。)

指定大学院での2年間

臨床心理士の要請は大学院でなされます。2年間必要な単位を取得したり、研究、研修に務めます。ここで、訓練される内容が、医学ではなく、主に臨床心理学であることが、精神科医との訓練段階の相違になると言えるでしょう。もちろん精神医学を学ぶ機会はありますが、精神医学の立場から心理援助を学ぶものではありません。

つまり、精神医学を背景に心理援助にあたる者ではなく、臨床心理学・心理臨床学の観点から心理援助にあたる者と言えるでしょう。(もう少し言い方はあります。)

比較してみると、お気づきになると思いますが、臨床心理士の訓練課程よりも、医師の訓練課程の方が長いわけです。そのため医師の訓練課程制度にに学ぶところは大きいと感じる心理士も多くいます。精神科に特化した研修は、初期研修以後になるという点を加味しても、学ぶところは大きいでしょう。いずれにしても、訓練が終るということはなく、その後も日々研鑽を続けることになります。

臨床心理士はよく勉強している、と口にする精神科医はたくさんいらっしゃいます。

しかし、これはどこか皮肉めいた表現でもあり、非常に本質的なことを指摘して下さっているのです。

医師に比較すると、圧倒的に現場での研修経験が不足しており、机上の空論や口が達者になるばかり、という方向性へ向かってしまう可能性が大いにあるのです。

就職して現場に出たとしても、若い医師が毎日何時間も、何十人もの患者さんと会っているのに比較して、カウンセラーは、なかなか自分の担当を持つ機会が少ないという現状があります。

数年たつと若手の医師たちは、豊富な経験を持ち、本や論文に書かれていること以上のものを身に着けているのです。

どちらのモデルの存在も大事である

これらのモデルは対立構造になりそうですが、本来相補的なものだと考えています。カウンセリングの立場から言えば、因果論的モデルによる支援があることを自覚しているから、我々は、目的論的に支援することに専念できるわけです。我々の支援モデルは、実は因果論によっても支えられているのです。

カウンセラーが、もし科学的な視点を持っていなかったならば、時に、それは魔術的な方向に迷走してしまう危険性を持っています。なぜ、臨床心理士の養成を大学院ベースにしたのかを考えると、科学性をしっかりと養うという目的が見えます。

以上になりますが、上記はあくまで一つのまとめ方です。