個別性

カウンセリングには理論がないかというと決してそうではなく、臨床心理学という背景があります。また、臨床心理学は学問として、日々研究を重ね、科学的に根拠を固めてきたことも少なくありません。

また、もう少し裾野を広げれば、発達心理学という分野もあり、人間の心理的発達を科学しているのです。臨床心理士資格を得るためには、こうした理論的なトレーニングも受けるカリキュラムがあります。

では、こうした理論に基づく心理援助活動だけを行えばよいのかと言えば、決してそういうものでもないのです。時に、理論が全く役に立たないこともあるでしょう。これは、カウンセリングの世界に限らず、医師や看護師も経験するところだと思います。

そもそも、理論は普遍性を備えているかというと、これもあながちそう言い切れないものであり、調査協力者の人数を相当に確保した場合でも、人類一般の心理傾向を明らかにすることは不可能でしょう。

ですが、理論を持たないこともまたそれは何を行っているのだろうという疑問へ繋がります。科学性というところをしっかり押さえることがまずは大事なことであることには違いありません。

そして、カウンセリングでは、同様に、個別性ということが重要になります。理論通りのことが生じることはまずないと言って良いでしょう。一人一人が全く別な人間なのですから、そう考える方が自然でしょう。

このようなことは、科学の知、臨床の知というテーマで多くの議論がなされてきています。カウンセリングを行う場合このような視点を持つことは重要です。

カウンセリングは、様々な方面へ多様な可能性を持った展開を示すものです。そのときカウンセラー側が理論のことばかり考え、ましてや理論へ当てはめようなどと考えていては、進む話もどこか現実味の伴わないことになるでしょう。時には、美談としてしまうこともあるでしょうか。

また、理論の他にも、世間の語りということも、難しい問題です。世間は就職や勤労、結婚ということを推奨、というよりは当然のことと考える節がありますが、そうした世間の語りばかりをベースに考えていると、その人の進みたい方向を見失ってしまうことにもつながりかねないのではないでしょうか。

どこに人生の価値を置くかはその人が決めて良いものであるはずなのに、世間的なプレッシャーが強い場合、そうした個別的な価値観を大事にできない場合があります。カウンセリングでは、こうした個別の世界観を尊重しようとする時間とも言えるのではないでしょうか。