シルクロードの惨敗

Bさんの企画は壮大な内容でした。

コンセプトは、シルクロードにあるような市場を、都心の百貨店のワンフロアに出現させるという企画でした。フロアの床も全部石畳にして徹底的に異空間を作り出したいということでした。場合によってはスタッフの服装にまでこだわりを持たせるつもりだったようです。

Bさんの中にあったインスピレーションを使ったそうです。多くの人が行き交う市場に、溢れるように積まれた見たこともないような野菜や果物の数々に胸躍る経験をした時があったとか。

Bさんは、この企画を通して、市場を単に食品を手に入れることを目的とした場ではなく、生きて行くことにワクワクする感覚や、胸が躍るような要素を持たせたいと思ったのです。

野菜の入手経路、照明の種類、石畳に使用する石の種類など、予算も合わせて、事細かにプレゼンに組み込みました。渾身の一作でした。

市場

主席していた役員たちも、夢中でプレゼンに聞き入っています。もしかしたら、この企画通るのではないでしょうか。

審査する会社役員

昔、聞いた名曲を思い出すようだ。市場を行く馬のひずめの音、行き交う人のざわめき・・・。まるで、都会から異次元へ連れて行ってくれるような・・・この企画にはロマンがある!

数日後、残念ながらBさんの企画の不採用が決まりました。素晴らしい企画だったが、果たして集客が見込めるのか、不透明な面が多いという理由だったそうです。

Bさんの惨敗でした。しかし、Bさんはどこか清々しささえ感じているのでした。

これもまた、何かがBさんの中で動いた瞬間だったのです。

後書き
失敗や惨敗・・・こうした響きからは余りいいものを感じられないことが多いものです。しかしBさんは、なぜか清々した趣です。人生においては、勝ち負けが非常に小さな意味を待たない局面もたくさんあります。それよりもむしろ、実はもっと大事なものを受け取る機会であることも・・・

◇ある30代女性Bさんの生き方

この物語風記事は数話に分けて書かれています。

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