最終更新日 2025年3月10日
よく精神科の診察時間が短いことが話題になる事があります。毎回1500円の支払いなら、10回では15000円になります。 そして10回分の交通費もそこに加算されるのです。
反面カウンセリングは毎回50分などと予め時間の長さが設定されています。 5分で診察が終わってしまうなら10回でようやくカウンセリング1回分です。
確かに時間も料金もカウンセリングの方がお得のように見えなくもありませんが、果たしてそういうものなのでしょうか?
5分間診療より得かどうかの問題ではない
そんなに単純に比較できるものとは思っていませんし、お得かどうかで比較する性質の事でもないと思います。 仮に臨床心理士のカウンセリングに保険が効くようになったとしても精神科医の存在意義に変わりはないと思います。
それぞれ別な専門性を持っているのですから相補的な役割をお互いが果たしているのではないでしょうか。 精神科医がいなくなってしまったらこの分野は大変なことになってしまいます。
臨床心理士は補助的存在なのか
臨床心理士は医師の仕事の補助的役割であると考える人は少なくないと思います。 つまり、本来は医師にもっと時間の余裕があれば医師が直接行うことを臨床心理士が埋め合わせるようにしているという意味合いになります。
精神科医のミニチュアが臨床心理士であるという認識です。 そういう面は医療機関においては特に少なからずあるのだと思いますが、本来の専門性の相違から考えるとそれだけの存在ではないと言えるでしょう。
しかし一般のユーザーの方々から見た場合にも、臨床心理士の存在はそのように映っているの可能性があるのではないでしょうか。(両者の専門性の相違点については精神科医と臨床心理士の違いは、視点にあるをご参照下さい。) 臨床心理士には独自の専門性があるとはいいながらも、その専門的行為を続けて行くには(常にという事ではないにしても)精神科医の存在が必須になるとも感じています。
昨今では公認心理師には医師の指示が必要であるとかそうでないとかの議論が巻き起こっています。現在の法律では、主治医がいる場合には公認心理師は医師の指示を受けることに決まりました。
- 関連ページ:臨床心理士と精神科医の違いの一つは視点にある
専門家の責任とユーザーの利益
カウンセリングなどは特に1対1の性質が極めて高い専門的行為です。 訓練を受けた者が行うべきであるでしょう。そしてそこには専門家が背負う責任もあります。 時に臨床心理士は面接室に閉じこもり過ぎであるという批判を受けることもあります。とは言われてもそういう仕事であるのですから批判されても仕方のない面があります。
外では精神科医が日々診療している事を知っているからこそ、臨床心理士は目の前の人の事に徹することができているとも言えるのです。そういう頼もしさを精神科医に感じている臨床心理士は少なくないと思います。
また、必要な時には精神科医側も臨床心理士への紹介を検討しているものです。
保険制度と病院運営の関係
病院での診療は保険点数が決められています。10点で100円とか20点200円という具合にです。
精神科では、通院・在宅精神療法という科目があります。
これは時間によって点数が異なります。
- 5分以上30分未満:315点
- 30分以上:410点
※精神保健指定医が担当した場合
という具合です。
このことから5分でも、27分でも点数は315点で変わりがありません。仮に30分を越えても95点の違いしかないのです。
30分の間に5人の5分間診療を終えたならば、1575点です。しかし30分以上の診察を1人の患者に行っても410点なのです。
どうやら、5分診療を織り交ぜなければ、病院を維持できない制度設計になっているようなのです。
医師たちの一つの葛藤はここにあるのでしょう。
- 参考サイト:令和6年度診療報酬改定の概要 厚生労働省保険局医療課 P16辺りが該当箇所です
短時間で見通しを持ち、処方までする医師の姿に驚愕
少し発想を変えると、5分間カウンセリングという表現があります。
50分でしかできないもの、と頑なになるのも良いのですが5分にはそれなりのやり方があるとする考えと言えます。
確かに他の職種からすれば、「なんで話に50分も時間かけてるの?」と疑問を抱く方もあるのではないかと思います。
週2回の診察と言う事であれば、ありえそうな枠組みにも思えますが・・・
いやしかし、せめて10分位は欲しい所ですが、精神科の先生方の理想とする時間はどのくらいなのでしょう。
いずれにしても、心理士側からすると5分でよくあそこまでできるものだと驚愕のコンパクトさなのです。
漫然と時間をかければいいわけではありませんし、5分程度しか体調がもたないという患者さんもいるはずですから、ポイントを掴んだ短時間の方法も必要なものではないかと思います。
- 参考論文:日本国内の診察時間研究の現状 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2012(直リンクは申請が必要のため、和文誌 日本プライマリ・ケア連合学会誌からお探しください)
援助濃度の凝縮
カウンセリングも時に、10分や20分と設定して行うことがあります。入院病棟などをイメージするとそういう枠組みが必要であることに思いいたるものです。怪我や病気の中にある時、通常の50分では負担が大きく長すぎるのです。
しかし、それが50分のカウンセリングに劣るかと言えば決してそうではなく、濃度が凝縮された感覚です。毎回そういう風にはいかないかもしれませんが、そういうこともあり得るのです。
もし精神科医がそのような意識で5分診療にあたっているのだとすれば、そこに猛烈な集中力・エネルギーを投入していることが想像できます。
まとめ
2時間も待ったのに、診察は5分で終わってしまうという経験をなさった方は多いと思います。
果たしてこれでいいのか、それは医師たちの間でも問題視をしています。
ですが、それならば50分のカウンセリングに変えてしまえばいいということではないのです。
シビアな話ですが、この形式がこの国のテンプレートのようになっていると見てしまった方が活用の工夫がしやすいかもしれません。