最終更新日 2024年4月8日
精神科医と臨床心理士の違いは、よく話題にのぼる疑問の一つです。
一般の方の中には、混同されている場合もあると思いますが、全く異なる存在です。
よく考えてみれば、その道に詳しい人達の間では当たり前の事でも、馴染みのない人にとっては、区別のつきにくい資格や仕事はたくさんあると思います。
精神科医と臨床心理士の違いについて
ここでは、あくまである観点からの一つの説明の仕方に過ぎませんが、精神科医と臨床心理士の違いに触れてみたいと思います。
大きな違いは、視点やモデルにあると考えています。その他、合わせて訓練課程の相違についても触れたいと思います。
- 参考サイト
精神科医とは
はじめに、精神科医でない者が精神科医の専門性を述べることは非常に恐縮する事柄であり、しかも、その深淵なる領域にまで及んだ記述はできないということを前提としておきたいと思います。
カウンセラー(臨床心理士)の立場から書いていることをご承知ください。ここに書かれていることは、精神科医を表すごく一面です。
精神科医のモデルは因果論的
さて、精神科のモデルは主に因果論に基づくモデルであり、これは原因と結果に注目するものと言えます。
我々は日常でも、物事の原因を探す事があります。つまり、雨が降ったのは、梅雨入りしたためだ、とか、最近体重が増えたのは、カロリー摂取が増えたためだとか、電気が点かないのはヒューズが切れたためだ、というように因果論に基づく考え方や見方は、我々の生活の中に溢れています。
むしろ主流といえるもので、この考え方なしには我々の生活は成り立ちません。精神科以外でも多くの場所でこのモデルは活用されています。
精神科医の援助方法
次に、この因果論に基づいたモデルでは下記のように援助が展開されます。
このように、集中力が低下した原因を特定し、その対処法を睡眠薬の処方としています。その結果、睡眠時間が増え集中力回復へと至るという流れです。
精神科医療も基本的には上記の様な流れで計画が組まれるはずです。
日々の診療で行うこと
精神科医の場合は、臨床心理士には法的に許されていないことが日々の診療の中で行われています。
- 薬の処方(抗不安薬や睡眠導入剤などがあります。)
- 精神療法(定義上は、カウンセラーが行う場合は、心理療法、精神科医の場合は精神療法と呼ばれる、というぐらいの違いではありますが、誰が・どういう視点でその援助法を用いるかによって、内容は変わっていくと考えています。実際のところ、時間の関係で、医師が正式な精神療法を実践する機会は少ないと言えます。)
- 診断(臨床心理士は、診断を行ってはいけません。)
精神科医の仕事については政府系情報サイトにも動画付きで詳しく取り上げられています。
精神科医の訓練
精神科医は医師ですから、当然大学は医学部へ入学する必要があります。そして、医学や精神医学を学び、医師免許の取得を経て、自分で診療を行うようになっていきます。
その後に初期研修に入ります。この、初期研修は医師法第16条の2に該当します。
この研修後に、自分の進む診療科でのさらなる研修へと移行していきます。(学部入学から初期研修の修了まで8年かかることになります。年齢にすると、ストレートで、26才位になるようです。下記資料に図解されています。
臨床心理士とは
一方、臨床心理士についての説明はは下記のようになされています。
臨床心理士は、心の問題に取り組む“心理専門職”の証となる資格です。
「臨床心理士」とは、臨床心理学にもとづく知識や技術を用いて、人間の“こころ”の問題にアプローチする“心の専門家”です。
臨床心理士の近接領域の専門家、たとえば医師や教師がおられますが、これらの専門家は、臨床心理士も含め、「人が人に直接かかわり、そのかかわる人に影響を与える専門家である」といえるでしょう。
引用元:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会 「臨床心理士とは」
臨床心理士は目的論的
臨床心理士の主要な専門的行為であるカウンセリングは、因果論から離れたモデルになります。目的論的などと表現されます。(全部そうだとは言えないとは思っています。あくまで、一つのまとめ方であるとお考えください。)
つまり、原因ではなく意味の方に注目するモデルです。このモデルの説明は非常に難しいものがあります。
こちらの方が目的論的な発想になります。(もちろん発熱には他の要因があったり、苦しんでいる時に解熱剤を使わないとかそういう意味ではありません。あくまで説明のための例として提示しています。)
カウンセリングで問題となっていることは、多くの場合原因がわからないものです。また原因がわかったところでどうにもできない場合も多数だと思います。
昨今では、ソリューション・フォーカスト・アプローチのように、原因を探すのではなく、うまく行っている状況から解決のヒントを得るという発想も広がってきています。解決志向と呼ばれます。
(因みにこのアプローチは、ミルトン・エリクソンという精神科医の診療をエッセンスにしているわけであり、精神科医の中にも、因果論的でない視点を持っている人がいたのです。そういうこともあり、単純に精神科医と臨床心理士の違いを述べることはややこしい点が多数あります。)
この視点に立った場合通常の相談とは少し趣が変わって映ることもあります。カウンセラーはなぜ他の相談の場合のようにはっきりしたことを言わないんだろう?と疑問や怒りを感じる人もあるのではないでしょうか。
臨床心理士は体験にフォーカスする専門家
もう一点、心理臨床家独自の視点と呼べるであろうことを挙げてみると、「体験」という概念を思い浮かべる。
我々は、どのような体験をしているか?ということに非常に大きな注意を払っているのではないかと思う。(精神科医ももしかしたら、大きな意識を寄せているのかもしれないが)
そして、アプローチする際にも、「体験様式」がより良く・やり易くなっていけることなどを意識している。
日常的業務
- 心理面接(カウンセリング)(面接が、臨床心理士の活動における中核的な業務です。医師の診察とは異なります。)→臨床心理士とはもご参照下さい。
- 心理検査(検査も大きな専門性の一つです。診断のためではなく、どのような体験をしているか、という点に注目します。)
臨床心理士の訓練
ここで、精神科医と比較して臨床心理士の訓練に触れて行きたいと思います。
臨床心理士の場合は、医学部ではなく教育学部や文学部の方面へ進みます。学部で何を学んでいたかは今のところ問われませんが、多くの場合は心理学科に所属しています。(俗っぽい言い方ですが、心理学科は、理系・文系の括りで言えば、文系にあたります。医学部は、理系です。)
指定大学院での2年間
臨床心理士の要請は大学院でなされます。2年間必要な単位を取得したり、研究、研修に務めます。ここで訓練される内容が、医学ではなく主に臨床心理学であることが精神科医との訓練段階の相違になると言えるでしょう。もちろん精神医学を学ぶ機会はありますが、精神医学の立場から心理援助を学ぶものではありません。
つまり、精神医学を背景に心理援助にあたる者ではなく、臨床心理学・心理臨床学の観点から心理援助にあたる者と言えるでしょう。(もう少し言い方はあります。)
比較してみると、お気づきになると思いますが、臨床心理士の訓練課程よりも、医師の訓練課程の方が長いわけです。そのため医師の訓練課程制度にに学ぶところは大きいと感じる心理士も多くいます。
精神科に特化した研修は、初期研修以後になるという点を加味しても、学ぶところは大きいでしょう。いずれにしても、訓練が終るということはなくその後も日々研鑽を続けることになります。
と、こんな風なことを口にする精神科医は、たくさんいらっしゃいます。
しかし、これはどこか皮肉めいた表現でもあり非常に本質的なことを指摘して下さっているのです。
医師に比較すると、圧倒的に現場での研修経験が不足しており、机上の空論や口が達者になるばかり、という方向性へ向かってしまう可能性が大いにあるのです。
就職して現場に出たとしても、若い医師が毎日何時間も、何十人もの患者さんと会っているのに比較して、臨床心理士はなかなか自分の担当を持つ機会が少ないという現状があります。
数年たつと若手の医師たちは、豊富な経験を持ち本や論文に書かれていること以上のものを身に着けているのです。
臨床心理士の訓練課程の詳細を審査する機関があります。臨床心理士資格認定協会のHPもご参照下さい。
どちらのモデルの存在も大事である
これらのモデルは対立構造になりそうですが、本来相補的なものだと考えています。実際、診察とカウンセリングを並行して進めることもあり、決して稀な事でもありません。カウンセリングの立場から言えば、因果論的モデルによる支援があることを自覚しているから、我々は目的論的に支援することに専念できるわけです。
我々の支援モデルは、実は因果論によっても支えられているのです。
カウンセラーが、もし科学的な視点を持っていなかったならば、時に、それは魔術的な方向に迷走してしまう危険性を持っています。なぜ、臨床心理士の養成を大学院ベースにしたのかを考えると、科学性をしっかりと養うという目的が見えます。
以上になりますが、上記はあくまで一つのまとめ方です。