ブログ著者:臨床心理士 松田卓也

最終更新日:2025年10月19日

カウンセリングにもAIの活用が進んでいる

AI時代

心理面接にマニュアルはないと、何度もそんな言葉を聞いた記憶があります。

一方、世の中はどこに行ってもマニュアルだらけでした。

その形は様々ですが、薄っぺらいものから、数百ページある物まで・・・

そして、昨今ではAIチャットなるものが登場し、なんでも質問できる世の中になってきました。

カウンセリングにマニュアルはないが、AIの活用は進んでいる

カウンセリングは、人と人が対して行われてきました。

電話相談にも長い歴史があり、そしてコロナウイルスの登場が後押しするようにZOOMなどによる遠隔相談がかなりの数行われています。

これは、今まで物理的に利用不可能だった人達にとって画期的な事でもあったわけです。

敢えて、光の当たらない部分に光を当てることにも、見落としを防ぐ意味があると思っています。

アフターインターネット時代のカウンセラーはどう在るべきか

インターネットの浸透は、我々の社会生活を大きく変えました。インターネットが浸透してから以後の社会では、もうインターネットなしでは、同様の生活を送ることが困難であるとさえ言えるのではないでしょうか。

駅の窓口に出掛けなければならなかった切符は、出発の駅から目的の駅までを購入できるのです。それもデスクの上で電話も使わずにです。もっと極端に言えば、電車に乗車しながらでも携帯電話を使えば経路も料金も確認することができるのです。

生活のあらゆる局面にインターネットが入ってきて、以前はどうやっていたのかわからなくなってしまうほどです。何か調べものがあれば、検索をすれば、誰かがまとめた情報が映し出されます。

以前であれば、辞書などの書物をひっくり返さなければたどり着けない情報も即座に、場合によっては動や画像付きで情報を得ることができるのです。ときにその信憑性は危ういものの、時間を経るにしたがって、その信憑性さえも補い続けています。

我々専門家もスマホで専門的情報を収集する時代になりました。

目まぐるしい変化のスピード

スピードも違います。以前はなんだかんだで、アナログに調べたり、チケットを購入した方が早かったものです。しかし、あるときから、インターネットの方が早くて便利になっていったのです。目まぐるしい変化の中を我々は生きていると言えると思います。

一時、パソコンを身近に利用する人が増えたと感じた人は多いでしょう。しかし、それさえももう過去のことのように言われています。検索をする際に使用する機器は、パソコンが圧倒的に多いのではなく、もうスマートフォンとほぼ同じくらいになっているのです。そのため、パソコンを使用しない人は今後増える可能性が出ています。

こうして書いているこの文章も、数年後にはずいぶん古びた内容になっているのでしょう。それほどにこの分野の変化は早く大きいようです。時代は、インターネットどころでなく、AIのことに関心が移り始めています。SF小説のような世界が射程圏に入って現実味を帯びてきたように思います。

今までどうやっていたのか思い出せない

電車に乗って席に着いたとき、とりあえず携帯を確認する人がたくさんいます。携帯がなかったころ我々は、電車の中で何をしていたでしょうか。

本を読んでいる人は説明がつきますが、本を読む習慣もない人は、いったい電車の中でどのように過ごしていたのでしょう。すっかり思い出せない人もいるのではないでしょうか。そしてまた、インターネットの登場により便利になった反面、新たなストレスが生まれたという側面も持っているわけです。

窓辺の景色に意識が向かなくなっていることは確かでしょう。

カウンセリングは一部電話相談を除けば、100年以上対面で行われてきました。
しかしアフターインターネット時代においては、ZOOMなどを通したオンラインカウンセリングがかなりの数行われるようになりました。
電話代もかからず、顔も映し出せるのですから、これは画期的な事です。コロナ以前からその存在はあったのですが、コロナ以降その需要は一気に加速した模様です。
果たしてこのことをどう捉えて実践していくのか、これは心理臨床家によっても未だ意見の分かれるところです。
先に述べたように、オンラインカウンセリングの是非などと言っているうちに、今度はAIカウンセリングなるものが出現しているのです。
参考資料

マニュアルに書いてありませんでしたか?は、AIチャットに聞いてみたのですか?に変わる言葉となる

少し皮肉めいた話とお感じになられるかもしれませんが、マニュアルにまつわるこんな話があります。

おそらく実際に経験された方も少なくないでしょう。

それはアルバイト先で、或いは何かの研修中、そういった場面でよくあることです。

研修先で、マニュアルを参考にしながら数々の事を覚えていた青年は、一つずつチェックリストを埋めるように研修課題をこなしていたところです。ホチキスの芯がどこにストックされているのか、掃除はどのタイミングで一日何度行うのか・・・そのお店で働くための全てがそこには詰まっているという事でした。

しかし、その量は膨大で一度覚えたことであっても忘れてしまうものですし、非常に微細な修正が日々繰り返されてもいました。まるで人知れずアップデートされているパソコンのプログラムみたいです。

一通り研修を終え、実務についたその青年は、余りの忙しさに混乱していました。

思い出せないこともあり、先輩に尋ねたのです・・・

青年
青年
あれってどこにしまってあるんでしたっけ?

すると、すぐに返事はなく、先輩は沈黙しています。聞こえているのかどうか・・・

もう一度聞いてみたのです。

青年
青年
あの・・・
先輩
先輩
それマニュアルにあるでしょ!!

本当によくありそうな話です。

これがAIチャットなどが登場した後どうなるのか、概ね予想がつくわけです。

つまりは、「マニュアルに書いてあるでしょ!」が、「AIに聞いてみたの!?」に換わる未来が来るのではないかとみています。

今のところ、「ググったの?」とか「お客様、LINEでもお問合せできますよ」などでしょうか。ググるもかなり死語に近いと言われるようになっていますが。

中にはちょっと話してみたかったので質問したという方もあるのでしょう。しかしながら、これは現代社会において不要とか時間の無駄と見なされたり、不真面目とみなされることが出てきてしまいました。

手渡しという行為

手渡しという表現があります。

これは何も物を手で渡すというだけではなく、例えば技術や、教育にも言えることです。

弟子たちに自ら手を取って教える師匠などと言えば、尊敬されるものです。

逆に言えば、ふんぞり返っているばかりの師匠は軽蔑の意味でもちだされるのです。

AIのカウンセリング活用に因縁をつけているのではないのですが、少なくとも手渡しの行為ではなくなってしまいます。

果たして、そのことにより何を得て何を失ってしまうのか。

山形市が「つながりよりそいチャット」を実施

さて、実際にはAI技術は既に一部で運用が開始されています。

先日、NHKの時論口論でも紹介されていましたが、山形市が

その導入背景がHPに記されていますのでまず下記に抜粋・引用します。

引用元:つながりよりそいチャットのご案内 | 山形市

近年、少子高齢化や核家族化の進行といった社会構造の変化に加え、コロナ禍が拍車をかけ、地域や職場、学校等でのつながりが希薄化し、孤独・孤立の問題が懸念されていることから、令和6年4月1日に「孤独・孤立対策推進法」が施行されました。

国の「孤独・孤立対策の重点計画」においては、切れ目のない24時間対応の多元的な相談支援が掲げられていますが、現状では、専門職である相談員の人員確保が難しいこと、窓口や電話での相談に抵抗があるなど、孤独・孤立の悩みを抱えた方が気軽に相談できる環境が少ない等の課題があります。

山形市では、ひきこもりをはじめとする様々な問題の深刻化を予防するため、子育て世帯の孤立感や悩みごとの解消に、既に成果を挙げている「おやこよりそいチャット」を参考に、国の法施行に先駆けて、令和5年2月にLINEを活用した相談支援事業として、試行的に実施しました。

試行では、漠然とした生きづらさを抱える方からの相談や「話を聞いてほしい」という傾聴のニーズの割合が高く、チャットのやり取りを通じて、相談者が前向きに変化していく好事例がいくつも生まれました。

これらを検証し、その結果を踏まえ、全国的にも例のない先進的な取り組みとして、新たに開発した傾聴型生成AIと社会福祉士や精神保健福祉士などの専門スタッフによるハイブリッド型24時間LINE相談「つながりよりそいチャット」の運用を令和6年7月より開始しました。

このような趣旨のもと、実際に運用が開始されています。

こうした取り組みは、今後ますます拡大すると考えられます。

相談件数が増える中、様々な分野で知られているよう人手不足の問題があります。

これは専門家も例外ではなく、地域によっては、臨床心理士などほとんど存在しないこともあります。相談員不足は今後ますます深刻化することになります。

こうした社会背景がある中で、我々も柔軟な発想が求められるのでしょう。

奈良市の「おやこよりそいチャット」に関する発表

奈良市の定例記者会見でも述べられていましたが、AIにまかせきりにすることはもちろんないと述べられており、ハイブリット支援の重要性を主張していました。

カウンセリングルームまでの道程で体験する事

道中

また、AIカウンセリングでは場所を選ばなくなるでしょう。

カウンセリングはこれまで所定の空間で行われてきました。

この違いが何をもたらすかを、少なくともカウンセラー側が認識しておく必要があるのではないでしょうか。

例えば、自分のことを考える余裕がないというテーマのカウンセリングを行うとします。

この場合、カウンセリングルームまでお越しいただくのは、時間を縫って無理くりして時間を作り出してくださるのでしょう。移動時間も含めれば決して小一時間ではなく、半日がかりのことになるのです。

それをスマホで実施可能なら移動時間は0にできます。どう考えても、その方が良いのではないかと現代社会の原則では考えることになります。

一方、我々人類は便利さを得た反面何かを失ってきたことを別なページに記しました。

カウンセリングにもそういう性質の面が多々あります。なにしろフロイトの時代からこのスタイルで行ってきたのですから。

移動時間が長い事は何を意味するというのでしょう。

それは、カウンセリングの副産物として自分自身の時間として使えることです。

カウンセリングルームまでの道程の中で、この一週間の出来事や気持ちを振り返る時間になっている可能性があるのです。帰り道にもまた思うところがあるはずです。

もっとも、AIやオンラインカウンセリングがなくとも、スマホの操作にそうした時間を奪われてしまっていることは予てからあったのでしょう。

手塚治虫の火の鳥

余談ですが、手塚治虫の火の鳥を読んだ人はAIの登場から真っ先に世界の破滅を思い出されたでしょう。

未来編のことではなかったかと思いますが、AI同士を対話させる姿が描かれています。

また、別な話では、AIが人権を主張しだすという物語がありました。

はじめはなんのことやら理解できませんでしたが、そうなのです。

AIは人間の思考の一部を集めた集合体なのですから、Aiが「私は人間だった」と主張しても不思議な事ではありません。AIが感じる事(?)は私の一部が反応していることなのかもしれないのです。

AIをひたすら働かせるもどこか後ろめたい気持ちになるものです。

温かさと親切さ

カウンセラーに必要な態度は、これであると教わってきました。

単純な言葉のようであって、重みのある言葉です。

理屈などを覚え始めると、いつしか初心を忘れるように、目の前の人をなおざりにしてしまう事があります。これはどの職種においてもいえることでしょうか。

人と会っていく仕事などと言う以上、我々心理カウンセラーは肝に銘じておかねばなりません。

まとめ

どんな未来がやって来るのかまったく想像もつきません・・・ではなく、概ねこうなるだろうというところもあります。

そして、AI時代に手渡しカウンセリングが存在する意義とは何かを、改めて考えることも重要であると思います。

これまでにも、その時代、時代の光と影のような視点をカウンセラーは持っていたはずです。